蛍火の下で

「襧豆子」

無一郎くんと手を繋いだままだったことに、名を呼ばれてやっと気づく。

「無一郎くん、さっきの…」
言いかけてハッとする。彼の青みがかった緑色の瞳が、わずかに揺れていた。夜闇に慣れた目と、心もとない蛍の光で一瞬見えただけだから、勘違いかもしれない。

「どうしたの?」
「…なんでもない。すごいね、蛍」

「うん。そういえば、寒くない?」

「大丈夫」
私の返事に頷いた彼は、また蛍たちへと視線を戻した。

あの蛍を…無一郎くんは誰と重ねたのだろう。

儚い光の中。彼の孤独を見た気がして、ふれていいものか躊躇った。そもそも自分にそんな資格なんてないのだ。

涙の理由は、聞かずともわかる気がする。

無一郎くんは、まるで蛍みたい。
肩にかけられたエ霞文の羽織をそっと掴む。


だからこんなに、切ないのかな。

急に怖くなって、たまらず無一郎くんの手を握りしめた。すぐに握り返してくれる手に、また泣きそうになる。

もっと、あなたの心にふれたい──。

そう願ってしまう自分の気持ちを、もう誤魔化すことはできなかった。
14/15ページ
スキ