蛍火の下で

喉を通り損ねたお茶のせいで、むせ返る僕の背中をやわらかい手が撫でた。

「小鉄くん、お付き合いしてるわけじゃないよ」苦笑いで答える襧豆子に、納得しかねない小鉄くんが首をひねらせる。

「そうなんですか?でもこうしてみるとお二人、結構お似合いだと思うんですけど「はいはい小鉄くん!天元様のお酒はまだあるかしらー!?」

まきをさんが話に割って入ってきた。
いささか強引な話のそらした方でも、その気遣いには感謝した。男女二人で、こうして泊まりに来てるんだ。小鉄くんや宇髄さんが、そういう関係を疑うのはごく自然なこと。

肝心の襧豆子はどう感じているのか、やはりわからない。いつものように、ただ優しくほほえんでいるだけだった。


「そうだ。今の時期、里ではもう蛍が飛びはじめてるんですよ」

食事もおわりが近づく中、鉄穴森さんが思いだしたように話しだす。その話題にいち早く反応したのは襧豆子だった。

「蛍!見られるんですか?」

「はい。奥の裏手に細い路地があるんですが、下っていくと川があるんです。その川の近くに行くと、蛍がたくさん見られますよ」

刀鍛冶の里は、川の上流近くにあった。蛍と聞いて、炭治郎の日輪刀を作った鋼鐵塚蛍さんが脳裏をかすめる。

僕の反応を伺うように、襧豆子が視線を移してきた。

「…見に行ってみようか」
「うん!」

「私も行きたいです!」
「あんたはいいのよ!」

「…では、俺も一緒に…」
「おまえは俺ともう一風呂だ!」

まきをさんが須磨さんを、宇髄さんが冨岡さんをわかりやすく制した。

…こんなのバレバレもいいとこじゃないか。

襧豆子と二人で行けるよう仕向けてくれるのはありがたい。けれど羞恥心から、そろそろこの場に居座るのが苦しくなってきていた。
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