蛍火の下で

───湯気で視界がぼやける中、灯篭の明かりがかすかに辺りを照らす。芯から体をぬくもらせる温水に、温泉特有の匂いがした。ちゃぽん、とお湯の揺れる音が耳に心地いい。

「ふぁ〜!きもちいいですね〜!」
「いいお湯ですね!」

須磨さんと襧豆子の会話が聞こえる中。
温泉にだけ意識を集中させようと、僕はひそかに呼吸を整えている。宇髄さんご夫婦と冨岡さんに、まさか里で鉢合うとは思いもしなかった。

どうしてこうなったのか。

交代で入ろうとしていた僕たちに向かって、宇髄さんが豪快に言い放った。

『だったらみんなで入ったらいいじゃねぇか!ド派手にいくぞ!!!』元音柱がそう言い放つと、襧豆子は雛鶴さんたちに手を引かれ、僕は宇髄さんに強引に背中を押され、今こうしてみんなで一緒に湯に浸かっている。

雛鶴さんたちに混じって、襧豆子も温泉を楽しんでいた。

ただひとつに束ねた僕とちがい、長い髪を器用にまとめあげ、きれいなうなじをのぞかせていた。湯気で火照った頬に少し濡れた髪が、色気を引き立てる。肩までしか肌は見えてないが、どうしてもその下を想像してしまう。

目のやり場に困り、波打つ湯面に視線を向ける。邪な心をどうにか鎮めようと、湯の中へ沈みたくなった。

「しっかし驚いたな〜。おまえら、いつの間にデキてたんだ?」

「…そういうんじゃないですよ。ただ一緒に遊びに来ただけです」
温泉を囲う石張りの壁をちょうど背もたれにして、元柱の三人は湯に浸かっていた。僕の返答に納得のいかない様子が、左隣から伝わってくる。

「泊まりでかぁ?よくあの堅物兄貴が許してくれたな………っつうか、どっちから誘ったんだ?もちろんおまえからだよな?」

「っ…!どっちでもいいでしょ…」

「なーに照れてんだよ。ま、うまくいったら、この俺様が直々に伝授してやってもいいぜ!女のあれこれなんざ、まだ知らねーだろ?」髪をかきあげながら、宇髄さんは得意げにそう言った。

女のあれこれの意味がわからない。尋ねようとする前に、右隣の冨岡さんが口を開いた。

「………時透は、襧豆子のことが好きだったのか」

「!?え…っ!」
思わぬ人からそんな言葉が飛びでて、一瞬面食らう。追い討ちをかけるように、冨岡さんが続けた。

「俺も襧豆子のことが好きだ。だから時透、おまえと一緒だな」

「…は…?え、それ…っ…どういうことですか」

初めて見た穏やかな笑みは、襧豆子へ向けてのものというのか。一瞬で胸がざわついて、冨岡さんに詰めよろうとすると、肩にごつごつした手の平がふれた。

「冨岡の話は深く考えなくていい。言葉が足りてねーだけだ」

宇髄さんが事も無げに諭す。
再び元水柱へと視線を移せば、心外だといわんばかりに驚愕な表情を浮かべていた。
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