蛍火の下で

誰もいない客間を二部屋ほど挟んで、僕と襧豆子にあてられた部屋があった。各々の部屋に荷物を置き、とりあえずは僕が借りている部屋でくつろぐことにした。

用意してくれたお茶を飲みながら、ひと息つく。外はすっかり日が沈み、もう少し闇が深まれば、星たちが活動をし始める頃だ。

「久しぶりにたくさん歩いたから、疲れちゃった」

「夜までに着けてよかったね」
「ふふっ、大丈夫って言ったでしょ?」

「せっかくおぶってあげようと思ったのに」

「!?だからそれはいいの!子どもじゃないんだから!」

「残念」
「もうっ!なにが!」
冗談を言ってるふうに見せかけてはいるが、"残念"というのは本心だった。

鬼の頃におんぶしてあげたときは喜んでいたのに。ますます彼女の頬が膨れそうだったので、それは言わなかった。
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