蛍火の下で

ぬかるんだ地面を歩いていると、土に沈んだ自分の重みで足跡ができる。僕よりも少しだけ小さな足跡が、隣で離れないようについてきていた。

葉っぱの上からしたたる水の雫が、陽の光に反射してきらきらと揺れる。昨夜から静かに降っていた雨は上がり、今日は空が高く澄んだ五月晴れとなった。朝早くから出発し、昼時には襧豆子が用意してくれたおにぎりをもらって食べた。

休憩しては歩く。それをただ繰り返した。

「襧豆子、大丈夫?」

「うん。平気だよ」

「もうすぐ着くから」
徐々に空から太陽が隠れていき、薄紫色と淡い桃色が重なり合って、夕空を作っていた。

襧豆子の体力を懸念していたが、これなら夜になる前に里へ着けそうだ。よくよく考えれば、襧豆子は山育ちなので山道には慣れているのだが。

いざとなれば、自分が襧豆子をおぶって走ってもいい。むしろそっちの方がはやく着けると思ったし、よかれと提案したのにすぐ却下された。


鬼狩りをしていた頃、刀鍛冶の里までの道のりを知っている者は、お館様らを含めたごく一部のみだった。鬼に里の居場所を悟られないよう、少しでも見つかる可能性をなくすためだ。

けど、鬼がいなくなった今の世界で、それはもう必要なくなった。隠の人達に連れて行ってもらわなくても、目隠しなんてしなくても、堂々と里へ向かってかまわない。

ただ一つ、失念していたことがある。
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