お出かけ日和

見知った上り坂が近づくと、弾んでいた胸が急速にしぼんでいくようだった。


この坂を上ってしまえば、もうすぐ蝶屋敷に着いてしまう。

まだ帰らなくていい理由を必死で探してみたけど、何も見つからない。大事に持っておいた金平糖の瓶。中の金平糖が、からんと瓶を叩いてきた。


「ねぇ無一郎くん。これ、一個食べてみてもいいかな?」

立ちどまると、彼も一緒に立ちどまる。

瓶から一粒の金平糖を取りだし、口に放り込んだ。いつもは大事にゆっくりと味わう金平糖を、今日は噛んでみる。

カリッ…。

『まだ一緒にいたいよ』
今はまだ、そんなこと言えないから。

口の中で溶かした金平糖を、ゆっくりと飲みこんだ。


───ほんの少しだけ。
歩幅を小さくして歩いてみる。

それに合わせて彼の歩幅も小さくなる。

帰るのが遅くなるのはきれいな夕日のせい。
二人の頬が赤いのは、真っ赤な夕日のせい。
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