お出かけ日和

*襧豆子side*

町がだいぶ遠ざかり、人通りも少なくなってきたところで、やっと無一郎くんが降ろしてくれた。

ここに来るまでに何度も降ろしてほしいと訴えたが、全然聞く耳を持ってくれなかった。むしろ、私の反応をものすごく楽しんでいたように思う。


「…そんなに膨れないでよ」
まるで子どもにするように、頭をぽんぽんと撫でてくる。

兄や両親、歳上の人に撫でられることはあったけど、同い年の男の子にされると、なんだか不思議な気分だった。

…無一郎くんにとって、私はどう見えてるんだろう。

自分が鬼だった頃の感覚でいえば、もしかしたら妹のように思っているのかもしれない。

………同い年なのに。

「………ものすっごく恥ずかしかった」

「うん」

「…私、絶対重かった」

「そんなことないよ。ちょうどよかった」

「ちょうどいいって何が!?」
こんな事言ったって、無一郎くんはおもしろがるだけなのに。でも、彼が楽しそうにしていると、自然と私も嬉しくなった。

頭からぬくもりが消えると、無一郎くんが懐から何かを取りだす。


しゃらっと音を奏でながら出てきたのは、小瓶の中いっぱいに敷きつめられた金平糖だった。

桃色や翠色、黄色に朱色、様々に彩られた金平糖は、夕焼けの光に反射して、まるで宝石のように見える。

「…きれい」

「襧豆子にあげる。好きだったよね?金平糖」

お店にあった金平糖、無一郎くんはいつの間に買ったんだろう。あまりにも私が物欲しそうに見ていたから、買ってあげようと気を利かせたんだろうか。

そう思うと、頬がかぁっと熱くなって、夕焼けと同じ色に染まりだした。

「…う、嬉しいけど、悪いよ…」

「もらってくれないの?金平糖、嫌い?」

「嫌いじゃない!好きだよ…一番好き。でも、なんかその…私、そんなに物欲しげにしてたのかなって………無一郎くん?」

「………ごめん、なんでもない」
恥ずかしくて彼の目を直視できなかったのに、なぜだか無一郎くんまで顔を覆ってしまっていた。指の隙間からわずかに見える彼の顔は、赤く染まっていたように思う。

もしかしたら彼のそれは、ただの夕焼けの色かもしれない。


ゆっくりと覆っていた手を離し、金平糖の瓶が差し出された。

「もらって。今日の記念に」

お店で見かけたものと、本当に同じ品なのかと疑問に思う。

受けとった金平糖は、今まで見てきた金平糖の中で、一番きれいで特別に見えた──。
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