お出かけ日和
二人分の食事代を払おうとすると、襧豆子に全力で制されてしまった。ちゃんとお金を預かっているからと、炭治郎の名を出されてしまったら引くしかなかった。
そろそろ帰路につこうかと考え始めた頃。
通りの方で男の怒鳴り声が聞こえてくる。視線を向けると、大柄な体格の男が一人。尻もちをついて、涙目になっている幼子が男を見上げていた。
「ご、ごめんなさ…僕…急いでて…」
「ふざけんなクソガキ!テメェがぶつかってきたせいで、俺の酒が台無しになったじゃねぇか!」
男の足元には酒瓶が一本転がっており、蓋が外れて中身がこぼれてしまってるようだ。が、男の赤い顔を見る限り、今でも相当呑んでいるように見受けられる。
襧豆子はここで待ってて。そう言うよりも早く、目の前を長い黒髪がなびいて走り去って行く。だろうなと思い直し、僕も後に続いた。
僕の好きな女の子はそういう子だった。
だって、あの炭治郎の妹だから。
「待ってください!謝ってるじゃないですか!許してあげてくださ…っ…!」襧豆子の体を引き寄せ、少しでも男から見えないよう後ろに下がらせる。
襧豆子の動揺が腕から伝わってきたが、構わず男を睨みつける。
「酒くさい。おじさん呑みすぎじゃない?」
「あぁ!?関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
目の前に伸びてくる腕を掴んだ。男との距離が縮まると、むせかえるような酒の匂いが顔にかかって、眉をひそめる。
掴んだ手に少しの力を込めただけで、男の顔が苦痛に歪んで跪いた。
「いっ……ッ…!」
「子ども相手にみっともないね。泣くまで怒鳴る必要もないでしょ」ちらりと幼子を見やると、呆気にとられた表情で、以前涙を浮かべていた。
「すいません!こっちです!」
襧豆子が子に駆け寄ろうとした瞬間、今度はそんな声が聞こえた。同時に複数の足音が近づいてくる気配がして、一部始終を見ていた誰かが警官を呼んだのだと察する。
別方向からは、夫婦らしき男女が焦った様子でこちらに駆けてくるのが見えた。もしかしたら、子の両親かもしれない。
「無一郎くん」
後ろに隠れさせていた襧豆子が、羽織を軽く引っぱってきた。垂れ下がった眉に、上目遣いで見つめてくる。
………その角度は、いろいろと反則だと思う。
「警官も来てるみたいだし、大丈夫そうだね」
「うん」
「手土産もちゃんと持ってる?」
「無事ですっ」
手土産が入っている紙袋を、わざわざ両手で持ち上げて僕に見せてきた。こんなときでも可愛らしくて、また頬が緩む。
「それ、しっかり持ってて」
返答を待たずに、襧豆子を横向きで抱えあげた。いきなり宙に浮いた感覚に、彼女の瞳が見開く。
「へ…?え…えっ!?」
「走るよ」
面倒事は避けたい。
腕の中で抗議する襧豆子はとりあえず無視して、町の外まで走り抜けた。
そろそろ帰路につこうかと考え始めた頃。
通りの方で男の怒鳴り声が聞こえてくる。視線を向けると、大柄な体格の男が一人。尻もちをついて、涙目になっている幼子が男を見上げていた。
「ご、ごめんなさ…僕…急いでて…」
「ふざけんなクソガキ!テメェがぶつかってきたせいで、俺の酒が台無しになったじゃねぇか!」
男の足元には酒瓶が一本転がっており、蓋が外れて中身がこぼれてしまってるようだ。が、男の赤い顔を見る限り、今でも相当呑んでいるように見受けられる。
襧豆子はここで待ってて。そう言うよりも早く、目の前を長い黒髪がなびいて走り去って行く。だろうなと思い直し、僕も後に続いた。
僕の好きな女の子はそういう子だった。
だって、あの炭治郎の妹だから。
「待ってください!謝ってるじゃないですか!許してあげてくださ…っ…!」襧豆子の体を引き寄せ、少しでも男から見えないよう後ろに下がらせる。
襧豆子の動揺が腕から伝わってきたが、構わず男を睨みつける。
「酒くさい。おじさん呑みすぎじゃない?」
「あぁ!?関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
目の前に伸びてくる腕を掴んだ。男との距離が縮まると、むせかえるような酒の匂いが顔にかかって、眉をひそめる。
掴んだ手に少しの力を込めただけで、男の顔が苦痛に歪んで跪いた。
「いっ……ッ…!」
「子ども相手にみっともないね。泣くまで怒鳴る必要もないでしょ」ちらりと幼子を見やると、呆気にとられた表情で、以前涙を浮かべていた。
「すいません!こっちです!」
襧豆子が子に駆け寄ろうとした瞬間、今度はそんな声が聞こえた。同時に複数の足音が近づいてくる気配がして、一部始終を見ていた誰かが警官を呼んだのだと察する。
別方向からは、夫婦らしき男女が焦った様子でこちらに駆けてくるのが見えた。もしかしたら、子の両親かもしれない。
「無一郎くん」
後ろに隠れさせていた襧豆子が、羽織を軽く引っぱってきた。垂れ下がった眉に、上目遣いで見つめてくる。
………その角度は、いろいろと反則だと思う。
「警官も来てるみたいだし、大丈夫そうだね」
「うん」
「手土産もちゃんと持ってる?」
「無事ですっ」
手土産が入っている紙袋を、わざわざ両手で持ち上げて僕に見せてきた。こんなときでも可愛らしくて、また頬が緩む。
「それ、しっかり持ってて」
返答を待たずに、襧豆子を横向きで抱えあげた。いきなり宙に浮いた感覚に、彼女の瞳が見開く。
「へ…?え…えっ!?」
「走るよ」
面倒事は避けたい。
腕の中で抗議する襧豆子はとりあえず無視して、町の外まで走り抜けた。