お出かけ日和

───昼時の近い頃合いに、ちょうど買い物を終えることができた。

深く考えずに入店した定食屋は、どことなく見覚えのある店だった。席に通してくれた店員さんの顔ぶりや、店内に貼られた品書きで、鬼殺隊時代に煉獄さんや宇髄さんに連れてきてもらった店だと気づく。

煉獄さんがよく食べていた牛鍋定食は、今でも品書きの中にあった。あの人の牛鍋を食べる速さは凄まじかったけど、定食に添えられたサツマイモ入りの味噌汁だけは、丁寧に味わって飲んでいた。

『うまい!』とあの快活な声が今にも聞こえてきそうで、思わず店内を見回す。隊服を着た人などもちろんいないし、ただ食事を楽しむ他の客たちがいるだけだった。


「うーん………」

向かいに座る襧豆子が真剣な面持ちで品書きを見つめている。食べたいものを選ぶだけなのに、なんであんなに力んでいるんだろう。

子どものような姿に、笑いがこぼれそうになった。それでも本人はいたって真面目に選んでて、それがよけいに笑いを誘ってくる。

我慢していたのに「無一郎くん!山かけうどんと天ぷら定食、どっちがいいと思う!?」なんて聞いてくるから、ついに吹きだしてしまった。

「…ぶっ!」
「あ、なんで笑うの!」

「……っ、ふふっ。だって…ごめん。あまりにも真面目な顔で聞いてくるから」

「だってどれも美味しそうで迷うんだもん」

頬を膨らます襧豆子は、ますます子どものようだった。

せっかく来たのだから、滅多に食べない洋食はどうだろうか。そう助言すれば「それもそっか!」と目を輝かせて納得していた。


可愛いな…。

また笑いだす僕を見て、襧豆子が不満そうに声を上げていた。


ひと通り食事を終え、温かいお茶でお腹を落ちつかせる。襧豆子と二人きりでの食事は楽しいものだった。美味しそうにオムレツを頬張る姿を眺めていると、何を勘違いしたのであろうか、『一口食べる?』と聞いてきたのだ。

まるで弟にでも話しかけるような口ぶりだから、こっちもいじわるだって言いたくなる。

『食べさせてくれるの?』
冗談げに言ってみせると、襧豆子の顔が途端に真っ赤になった。

見ていて飽きないほど、本当に表情が豊かだ。

…襧豆子にとって、僕はどう見えてるんだろう。

男として見てくれているのか。まさか、弟みたいだなんて思われてやしないだろうか。

まだ、襧豆子の心の中は見えない───。
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