お出かけ日和

町に着いて、まだほんの数分しか経っていないと思うのだが、以前に炭治郎が話していたことを理解した。

襧豆子から離れないよう一定の距離を保ち、そっと周囲に気を張り巡らす。これはなかなか居心地がよいとは言えなかった。

すれ違う男たちのほとんどが、襧豆子へ熱い視線を送っている。頬を赤く染めている者、自分の連れが異性であるにも関わらず、襧豆子に見惚れている者までいた。

当の本人は自分が注目の的になっていることに全く気づいておらず、無邪気にどの店に入ろうかと迷っていた。

好きな女の子が他の男にジロジロ見られているのは、正直不愉快極まりない。

「無一郎くん、ここのお店なんかどう?」

「…うん。見てみようか」
いまだに背後から複数人の視線を感じるので、念のため一睨みをしておいた。怯える声をあげ、散っていく男たちを確認した後に店へと入る。

…襧豆子は僕が守らないと。

先に入って行った襧豆子へ追いつくと、彼女は団子や饅頭が揃えられた棚の前に立っていた。

「どれがいいと思う?」

「種類が多いと迷うね」

「鋼鐵塚さんは、みたらし団子が好きなんだって。お兄ちゃんが言ってた」

「じゃあ一つはそれにしようか。後は饅頭にカステラ…」意見を求めるため顔を向けると、一点を見つめた襧豆子が動きをとめている。目線の先を辿ると、そこには金平糖ばかりが集められた陳列棚があった。

「襧豆子?」

「あ、ううん。あっちも見てみるね」
金平糖の陳列棚と反対側の棚へ向かって、彼女は歩いていった。
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