お出かけ日和

待ち合わせ場所である蝶屋敷が見えてくると、門前の前に襧豆子と炭治郎が立っていた。

僕に気づいて手を振ってくる二人に向かって、早足で近づいていく。

「時透くん」
「おはよう」

「おはよう。ごめん、待ってた?」

「全然大丈夫」
「時透くん。今日は襧豆子をよろしく」

炭治郎に笑顔でそう言われ、途端に気恥ずかしくなる。襧豆子と二人で出かけるという事実を、改めて示された気になった。炭治郎に今日のことを話したとき、本当は反対されるかと思っていた。命懸けで守ってきた大事な妹を預けることになるわけだし、どう説得しようかとあれこれ悩んでいた僕をよそに『襧豆子がいいなら、かまわないよ』とあっさり了承してくれた。

「二人とも、気をつけて行っておいで」

炭治郎に見送られながら、襧豆子と二人で歩きだした。季節はすっかり春模様になっていて、道端には色とりどりの草や野花が咲いていた。
ただ歩いているだけでも気持ちのよい季節だが、今日はそれだけじゃない。

隣に襧豆子がいる。それだけで、こんなにも世界は明るいと感じる。

「…お兄ちゃんてば。いつまでも子ども扱いするんだから」歩きながら、襧豆子が拗ねたような声で話しだした。

麻の葉模様の着物を着て、髪を斜めに流すように大きめの三つ編みで結ってある。出かける前に、炭治郎にあれこれと口うるさく言われていたらしかった。

「無一郎くんの言うことちゃんと聞くんだぞ、だって。私たち同い年なのにね」

「襧豆子のこと心配なんだよ」

「心配してくれるのは嬉しいけど、財布持ったか?とか、ハンカチ持ったか?とか何度も聞いてくるの。ちゃんと確認したよって言ってるのに何度もだよ?おかしいでしょ」

拗ねていたと思ったら、すぐにいつもの笑顔に切り替わる。

「そうだ。蝶屋敷のみんなにも、お土産買いたいな」

「うん。いろいろ見て回ろう」

「町に出るのなんて久しぶり!楽しみ」

目に見えてはしゃいでいる襧豆子は、今にも駆けだしていきそうなほど足どりが弾んでいた。そんな姿が愛らしく、本当に人間に戻れてよかったと、改めて思った。
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