お出かけ日和

隊服以外の服を着るのは久しぶりな気がした。

長着に袴。白地の上に、緑色のエ霞文がほどこされた羽織。隊服に比べて一段に軽い普段着を着るたび、鬼はもういないんだと再認識する。

着替えがおわり、玄関まで向かおうとするが、約束の時間にはまだ少し早いと思い直した。

もう一度持ち物を確認しておこう。

何度目になるか分からない持ち物の確認を、再びし始める始末だった。


今日は襧豆子と一緒に町へ行く約束をしている。刀鍛冶の里へ一緒に行くことが決まると、どうせなら手土産を持って行こうと襧豆子が提案をしたのだった。思いがけずに追加された襧豆子との約束に、自然と胸が弾んだ。自分以外誰もいない家なのに、ゆるむ口許を隠すように抑える。

初めて襧豆子にふれたあの日。
襧豆子の手の感触も、潤んだ桃色の瞳も、自身の心をかき乱すには充分すぎる破壊力だった。

ただ体が勝手に動いていた。あの瞬間、襧豆子を確かに求めていた自分がいる。

誰にも渡したくない。
襧豆子を好きだと自覚せざるをえなかった。

両親と死別し、たった一人の肉親である兄が、鬼に殺された。鬼殺隊に入隊して、毎日がむしゃらに刀を握ってきた。必ず鬼をこの世から滅する。それだけを胸に宿して生きてきた。


でも、今は…。

つぶれた豆だらけの手のひらを見つめる。

そっと握りしめると、彼女のぬくもりにふれた気がした。
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