自覚 〜襧豆子の場合〜

月に照らされた無一郎くんの横顔を見ていると、彼が目覚めたあの夜を思い出す。

こうしてまた話せていることが何よりも嬉しいのに、先ほどからうるさい心臓の音が、彼に聞こえていやしないかと不安になった。

「襧豆子」

「なぁに?」

「今度、小鉄くんたちに会いに刀鍛冶の里へ行くんだ」

「そうなんだ!前にもお見舞い来てくれてたね」

「うん。元気になったら、今度は自分から遊びに行くって伝えててね。それで…」はたと無一郎くんの言葉が止まる。少し間を置いてから、そらされていた瞳と再び交わった。


「…襧豆子も、一緒に行かない?」


先ほどまでよく聞こえていた虫たちの鳴き声が、一斉に鳴りやんだ気がした。聞こえるのは、トクトクと高鳴る自身の胸の音。無一郎くんの言葉が、胸の中にゆっくりと落ちて浸透していく。

「あ…嫌なら、別にいいんだけど…」

「…ううん。行く!」
飛びはねそうになる気持ちを抑え、できるだけ冷静に答えようとしたけど、無理だった。嬉しい気持ちは隠しきれず、自然と笑顔になって答えていた。

「一緒に行きたい!」


霞柱の時透無一郎くん───。

同い年の男の子。

ふろふき大根が好きで、折り紙が得意な男の子。

時々なにを考えてるか分からない男の子。
なぜだか気になる男の子。

知りたい、と願った。

初めてそんなことを思えた男の子。
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