自覚 〜襧豆子の場合〜

「………っ!」
無一郎くんの瞳がすっと細められたと思いきや、また握られた手に力が込められる。

なぜだか分からないけれど。
本能で逃げられないと感じた。

顔、手、足。体中から熱い何かが溢れてきそうで、心臓が強く波打っていた。鍛錬をしているときの真剣な表情も、一緒に遊んだときの優しい表情も、普段ぼんやりとしている表情だって。数は少ないけど、無一郎くんを見てきたつもりだったのに。

こんな無一郎くんは知らない。

どうして私にふれてるの、なんて。
聞けるわけない。

振りほどこうと思えば振りほどけるのに。

できない───。


戸惑いの中、かすかにある自分の感情に気づいてしまった。

───離さないでほしい。
この繋がれた手の先を、知りたい。

そう強く思ってる自分がいる。


「………………ま、い…」
微かに絞りだした声は、最初言葉にならなかった。

「…え?」

「お、おしまいっ!!!」
たまっていた羞恥心をぜんぶ吐き出すように、思いのほか大声が飛び出た。

無一郎くんの顔を見ることができなくて、そっぽを向く。今の私はきっと、ものすごくひどい顔をしているにちがいない。

弟じゃないと言われたばかりなのに、弟の六太に言っていたことと、同じことを言ってしまったのだ。
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