自覚 〜襧豆子の場合〜

いつもの日常に変化があったのは、思いのほかすぐだった。

名前を呼ばれた瞬間、わかりやすく顔に出ていたかもしれない。私が犬なら間違いなく尻尾を振っていただろう。

だって本当に嬉しかったから。
無一郎くんから声をかけてくれるなんて、思っていなかったから。

手を引かれたのは少しだけ恥ずかしかったけど、彼とゆっくり話をしたかったのは自分も望んでいたことだった。

ふろふき大根を作ったことに、わざわざお礼を伝えにきてくれた。食べてくれただけでも嬉しいのに、紙ひこうきの作り方を、また教えてくれると約束してくれた。

私はすごく浮かれていたんだと思う。
すごく、すごく浮かれて、調子に乗っていたんだと思う。


───手から伝わってくる、無一郎くんのぬくもり。

どうして今、彼にふれているのか。
手を握られているのか。

理解できず、時が止まったように感じていた。

じっと自分を見つめる、青みがかった緑色の瞳。弟と重ねてしまったことに対して、怒っているのだと思った。

でも、徐々に怒っているわけではないと察する。



むしろこれは、

───捕らわれる感覚。
14/17ページ
スキ