自覚 〜襧豆子の場合〜

大広間での宴会は皆が大騒ぎだった。

須磨さんにお酒を勧められたが、お断りをする前にまきをさんが止めていた。親分は大量に作ってあった天ぷらをほとんど食べてしまい、アオイちゃんに叱られていた。

梅こんぶ入りのおにぎりは、無事に兄の手に渡って安堵する。我慢できずカナヲちゃんが作ったのだと打ち明けると、恥ずかしげもなく兄は大声でお礼を言っていた。

各々の座卓で盛り上がってる大広間で、ぐるりと周りを見渡した。

自分と同じ長い黒髪。美しい翠色の毛先。
お酒を飲む大人たちの中に無一郎くんはいた。

宇髄さんと話をしているようで、声をかけようにも躊躇ってしまう。同じ柱として、積もる話もあるのかもしれない。

まるで自分が自分じゃないような…簡潔にいうと、私らしくない。相手が誰であっても、気さくに声をかけられる方だと思っていたけど、実はそうじゃないみたいだ。

座卓では、いつの間にか私の昔話が持ち上げられていた。町で男の人からよく声をかけられていたなんて、そんなことを誇らしげに話す兄は、正直妹として恥ずかしい。

父や兄を通し、交際や縁談を持ちかけてきた男性は確かに何人かいたけれど、大勢の前で話すようなものではない。

突然立ち上がって泣き叫ぶ善逸さんも、叫び返す兄も、こんなときいつも私の耳を塞ぎにくるアオイちゃんも。日常の中に溶け込みすぎて、平和をしみじみと感じていた。

鬼に家族を奪われ、自分が鬼になる。
あんな未来を誰が予想できただろう。

──兄に手を引かれ、生まれ故郷の雪山を走り抜けた。

絶望しか感じられなかった道の先で、今こうしてみんなに出会えた。こんな未来を、あの日の兄や私に想像がつくはずなかった。

私たち兄妹を信じ、受け入れてくれた人たち。散っていった仲間たちの想いは、深く根強く心に宿っている。
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