自覚 〜襧豆子の場合〜
用意していた食材が、少しずつ底をつき始めていた。野菜が入っていた箱を片づけようとすると、大根が一本、箱の中に残っているのに気づく。
持ってみると、ずしりとした重みに、丸々とした立派な大根だった。大根といえば、すぐに無一郎くんの言葉がよぎる。
『──母さんが作ってくれるのも好きだったけど、兄さんが作ってくれたふろふき大根も、すごく美味しかったんだよ』
そう言って優しくほほえんでいた、あの時の彼。
「あの、雛鶴さん」
「ん?どうしたの?」
「この大根、私が調理してもいいでしょうか?」
「あら、余っちゃってたのね。もちろんいいよ。なに作るの?」
「ふろふき大根です。無一郎くんが好きなので」
「へぇ…霞柱様が…」
雛鶴さんの了解を得て、調理場を使わせてもらうことにした。
ふろふき大根は母に習っていて、家の食卓にもよくでていたから、作り方は覚えている。無一郎くんの思い出の味には到底叶わないけれど、少しでも彼の心が癒されてくれるならば──。
厚めに皮をむいて、裏面には十文字の切り込みを入れていく。こうすると火が通りやすくなり、味も染み込みやすいのだ。
『隠し包丁というのよ』
そう教えてくれた、遠い母との記憶が蘇った。
持ってみると、ずしりとした重みに、丸々とした立派な大根だった。大根といえば、すぐに無一郎くんの言葉がよぎる。
『──母さんが作ってくれるのも好きだったけど、兄さんが作ってくれたふろふき大根も、すごく美味しかったんだよ』
そう言って優しくほほえんでいた、あの時の彼。
「あの、雛鶴さん」
「ん?どうしたの?」
「この大根、私が調理してもいいでしょうか?」
「あら、余っちゃってたのね。もちろんいいよ。なに作るの?」
「ふろふき大根です。無一郎くんが好きなので」
「へぇ…霞柱様が…」
雛鶴さんの了解を得て、調理場を使わせてもらうことにした。
ふろふき大根は母に習っていて、家の食卓にもよくでていたから、作り方は覚えている。無一郎くんの思い出の味には到底叶わないけれど、少しでも彼の心が癒されてくれるならば──。
厚めに皮をむいて、裏面には十文字の切り込みを入れていく。こうすると火が通りやすくなり、味も染み込みやすいのだ。
『隠し包丁というのよ』
そう教えてくれた、遠い母との記憶が蘇った。