自覚 〜襧豆子の場合〜

そもそも、私は無一郎くんとどんな話をしていただろうか。

覚えているのは、高くどこまでも飛んでいきそうな紙ひこうき。空を切るように、風に乗って飛んでいく紙ひこうきは、見ていて感銘を受けたほどだった。彼は紙ひこうき以外にもいろんな物を折って見せてくれた。その様はまるで折り紙職人のようで、何度もせがんで見せてもらったのを覚えている。

ふろふき大根が好きだということも、そのときに教えてくれた。

家族との思い出の味らしく、語る彼の表情はとても穏やかで優しい瞳をしていた。そして、そんな大切な思い出話を鬼だった私に話してくれたことが、なによりも嬉しかった。

後は…なんだっただろう。
おんぶしてもらって、庭を歩いてくれた。私がたくさん笑うからって、いじわるな優しい顔して、何度もくすぐってきたの。

『襧豆子』
当時の光景と彼の笑顔が蘇って、体から火が出そうなほどに熱くなってくる。

なんで…密着してるのが多かったんだろう。
いくら精神が幼かったとはいえ、年頃の男の子と、なんてことやってたんだろう…!

思わず頬を押さえると、担当していた隊士の方から心配の声がかかり、慌てて謝った。


………無一郎くんは、嫌じゃなかったかな。
途端そんな不安に襲われる。けれど、そんなものはもう後の祭りでしかなかったのだ。
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