自覚 〜襧豆子の場合〜

───日が経つにつれ、歩き回れるほど回復した隊士たちが増えてきていた。寝たきりの隊士は一人もいなくなり、今は機能回復訓練を受けるまでに、皆の傷は癒えている。

訓練といっても、もう刀を握る必要はなくなったので、療養期間中に落ちた体力を、生活に支障がでないまでに戻すためのものだった。

鬼狩りをしていたあの頃に比べ、道場内はいたって和やかな雰囲気だ。

蝶屋敷の女の子たちに習い、私も柔軟や按摩の手伝いをした。初めてなので上手くいってるか分からず、受けもった隊士の人に何度も状態を確認しながら聞いた。

柱ならではの空気感というのか、何十人もいる道場内で、無一郎くんはすぐに見つけられた。
いつものようにぼんやりとした表情で立っていると思いきや、ふと表情が変わる。

その理由はすぐにわかった。

「炭治郎!」
笑顔で兄の方へ向かって行く姿を、目で追いかける。無一郎くんは私と一緒で、お兄ちゃんが大好き。同い年なはずなのに、私より全然大人っぽい子だと感じていたけど、兄と笑顔で話してる姿は自分と重なるものがあった。

以前は、私もあの輪の中に入ってよく遊んでもらったものだ。

けれど、今はなぜだか少し気恥ずかしい。声をかけたらいいのに、恥ずかしい気持ちが上回って動けなくなってしまう。
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