自覚 〜襧豆子の場合〜
「失礼します」
声をかけ中に入ると、ベッドに上半身だけを起こして、静かに座っている無一郎くんがいた。
自分と同じ長い黒髪に、毛先は青みがかかった綺麗な緑色。瞳の色も同じ色をしている。
鬼だった頃は、遊んでくれる優しいお兄ちゃんという印象だった。けど人間に戻って改めて無一郎くんを見ると、まるで女の子のようなきれいな顔立ちをしている。
同い年の男の子に女の子みたいだなんて、失礼かしら…。
うつむき加減だった無一郎くんが、私の存在に今気づいたかのようにこちらを向いた。
「襧豆子」
「お昼ご飯食べれた?薬持ってきたよ」
「ありがとう」
ベッドの傍らにある机には、お昼ご飯を食べ終えた後の器が置かれている。空になった器が、順調に回復へ向かっていることを示していて、嬉しくなった。
「よかった。全部食べたんだね」
「うん」
「薬、ここに置いておくから。あ、今日すごくいい天気なんだよ。窓開けておこうか」
そう言って窓を開けると、やわらかい春の風が入ってきた。朝晩はまだ少し肌寒いが、太陽が上っている日中は、ぽかぽかして暖かい。春の訪れを感じさせてくれる風が、病室の中で舞い始める。
風と踊るように、私と無一郎くんの黒髪がさらさらと揺れた。
「わ、ちょっと強いかな。閉める?」
「ううん。気持ちいいから、半分だけ開けておいてくれる?」
「わかった」
一日中ベッドの上にいたら気が滅入ってしまう。少し外の空気を入れるだけでも、気持ちはだいぶ違うだろう。
器を片づけ、それじゃあと部屋を出ようとするのと同時に、きよちゃんの声が聞こえてくる。
「襧豆子さーん!いらっしゃいますかー!?」
「はーい!いま行きます!」
最後にもう一度無一郎くんの方を振り返ると、何か言いたそうに、こちらを見つめる瞳に気づいた。
「無一郎くん?どうしたの?」
「あ…なんでもない。薬ありがとう」
「どういたしまして。じゃあまたね」
もう少しここにいたい──。
後ろ髪を引かれる思いを振り払うように、きよちゃんの元へ早足で向かった。
声をかけ中に入ると、ベッドに上半身だけを起こして、静かに座っている無一郎くんがいた。
自分と同じ長い黒髪に、毛先は青みがかかった綺麗な緑色。瞳の色も同じ色をしている。
鬼だった頃は、遊んでくれる優しいお兄ちゃんという印象だった。けど人間に戻って改めて無一郎くんを見ると、まるで女の子のようなきれいな顔立ちをしている。
同い年の男の子に女の子みたいだなんて、失礼かしら…。
うつむき加減だった無一郎くんが、私の存在に今気づいたかのようにこちらを向いた。
「襧豆子」
「お昼ご飯食べれた?薬持ってきたよ」
「ありがとう」
ベッドの傍らにある机には、お昼ご飯を食べ終えた後の器が置かれている。空になった器が、順調に回復へ向かっていることを示していて、嬉しくなった。
「よかった。全部食べたんだね」
「うん」
「薬、ここに置いておくから。あ、今日すごくいい天気なんだよ。窓開けておこうか」
そう言って窓を開けると、やわらかい春の風が入ってきた。朝晩はまだ少し肌寒いが、太陽が上っている日中は、ぽかぽかして暖かい。春の訪れを感じさせてくれる風が、病室の中で舞い始める。
風と踊るように、私と無一郎くんの黒髪がさらさらと揺れた。
「わ、ちょっと強いかな。閉める?」
「ううん。気持ちいいから、半分だけ開けておいてくれる?」
「わかった」
一日中ベッドの上にいたら気が滅入ってしまう。少し外の空気を入れるだけでも、気持ちはだいぶ違うだろう。
器を片づけ、それじゃあと部屋を出ようとするのと同時に、きよちゃんの声が聞こえてくる。
「襧豆子さーん!いらっしゃいますかー!?」
「はーい!いま行きます!」
最後にもう一度無一郎くんの方を振り返ると、何か言いたそうに、こちらを見つめる瞳に気づいた。
「無一郎くん?どうしたの?」
「あ…なんでもない。薬ありがとう」
「どういたしまして。じゃあまたね」
もう少しここにいたい──。
後ろ髪を引かれる思いを振り払うように、きよちゃんの元へ早足で向かった。