自覚 〜襧豆子の場合〜

あの夜、無一郎くんが目覚めたと、急いで愈史郎さんやアオイちゃんを呼びに行った。無一郎くんの生還に、誰もが驚き、そして心の底から喜んだ。

無一郎くんだけじゃなく、義勇さんも昏睡状態から目覚めた。柱たちの回復力には、心底驚かされる。ゴキブリ並の生命力だと愈史郎さんが驚愕していた。暗かった蝶屋敷の中に、少しずつ笑顔が戻ってくる。

怪我をした隊士たちの看病やお世話は、蝶屋敷の女の子たちに、宇隨さんご夫婦、隠しの人たちで協力してやっていた。幸いにも怪我が軽かった隊士は、自分の静養を終えると看病する側に回っていた。煉獄さんの父や弟の千寿郎くんも、たまに手伝いに来てくれた。

微力ながら、私も手伝わせてもらっている。

今は療養中の隊士たちへ、薬を配っていく仕事を任された。それぞれの症状に合わせた薬を、愈史郎さんとアオイちゃんが調合してくれたものだった。難しい指示ではないけど、それでも渾身の注意を払う。薬が乗ったお盆を持って、病室を回って行く。

最後の薬を確認するための名札を見ると、”時透”という苗字が目に入った。

無一郎くんのだ。

なぜだかくすぐったい気持ちになる。無一郎くんとは、目覚めたあの日からまだそんなに話せてはいなかった。

ノックをする前に軽く深呼吸をする。
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