自覚 〜襧豆子の場合〜

八ッとして目を開けると、青みがかかった緑色の瞳がわずかに開いている。ゆっくりと自分に視線を移し、彼の口が動いた。


「……ね、ず………こ……?」
自分を呼ぶ声を聞いた瞬間。体から力が抜け落ちて、熱い涙も一緒にこぼれ落ちる。自分の頬が濡れていることに、そのときやっと気がついた。

「無一郎くん…!よかった…よかったねぇ…!」

月明かりしかない部屋の中では、彼の様子はきちんとはわからない。状況を思いだそうとしてるのか、なんとなしに天井を仰ぐ仕草は、意識はきちんとあるように思えた。

紙ひこうきを飛ばし、よく空を仰いでいた無一郎くん。彼は帰ってきたのだ。

「無一郎くん」
もう一度呼びかけてみると、また自分の方へと視線を移してくれる。

無一郎くん。
鬼はもういなくなったんだよ。

みんなが命を繋いでくれたの。みんなでがんばったから。たくさん、たくさんがんばったから。平和な世界になったんだよ。みんなのおかげで。あなたのおかげで。


伝えたいのに、言葉の代わりに涙が溢れてくるばかりだった。声を出せないままでいると、今度は無一郎くんの手に力が込められた。

目と目が合う。
握りあった手と手から、無一郎くんの体温を確かに感じる。

はっきりと伝わる生命のぬくもり。



「…戻ってきてくれて、ありがとう」

またあなたに会えて、私は嬉しい。
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