自覚 〜襧豆子の場合〜

「無一郎くん!」

「………う…っ…!」
ベッドに飛びつき彼の顔をのぞきこんだ。
抵抗するように、逃れようとするように、怪我して動けないはずの体を必死で動かそうとしている。生きようとしてる生命の力が、そこに感じとれた。

「無一郎くん!無一郎くん!」

彼の手を掴むと、夜中にもかかわらず大声で叫んでいた。呼びかけることしかできないのが歯がゆくて、自分の無力さを痛感する。


「無一郎くん!!!」

だらんとした手首を引き寄せ、握った手を両手で包み込んだ。力を込めて、祈る。

まだ私は、無一郎くんになにも伝えられていない。伝えたいことも、話し足りないことだって、まだ残っている。

───どれだけの時間、そうしていたのかわからない。無抵抗だった彼の手が、指が、少しだけ動いた気がした。


ささやくような声が、確かに耳に届いた。
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