自覚 〜襧豆子の場合〜

一人部屋の病室はみな同じ構造になっている。

窓際のベッドに近づくと、包帯だらけで眠っている無一郎くんがいた。

昼間に見舞いに来たときと、なんら変わった様子はない。月明かりに照らされた無一郎くんの顔が、白くぼんやりと浮かび上がっていた。

…きれいだな。

たった二ヶ月の訓練で柱になったという、すごい剣術の持ち主だって、お兄ちゃんが興奮しながら教えてくれた。日の呼吸の使い手の子孫だということも。そんなにすごい人なのに、私と同い年だと聞いたときは、心底驚いた。

鬼にされた私は、鬼殺隊にとっては生かしておけない存在だった。兄や義勇さん、鱗滝さんの力添えのおかげで、なんとか命を絶たれることは免れた。

時間が経つにつれ、徐々に受け入れてくれる人たちも増え…気づけばみんなが優しく接してくれるようになっていた。無一郎くんも、そうしてくれたうちの一人だ。

───彼の鎹鴉の銀子ちゃん。
さわってみようと手を伸ばしたらそっぽを向かれ、自分は嫌われているのだと、急いで手を引っ込めた。

『銀子。この子は大丈夫』

主である無一郎くんが、自身の鎹鴉を諭す。
私の目の前に、腕に乗せた銀子ちゃんをゆっくりと近づけてきた。

『襧豆子。大丈夫だから。さわってごらん』

おそるおそる手を近づけてみると、今度は大人しく撫でらせてくれた。

『かわ、いい、ねぇ』
そう言うと無一郎くんも嬉しそうに笑った。


優しい人たちがいなくなるのはもう嫌だ。

無一郎くんにも生きてほしい。
どうか目覚めてほしい。
こうして祈って待つことしかできないけれど。

…明日、また来よう。

そう思い、病室を出ようとすると、かすかなうめき声が聞こえて立ち止まる。

振り返ると、先ほどまで目を閉じていただけの無一郎くんの表情に変化があった。眉間に皺を寄せ、苦しそうに唇を噛んでいる。
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