自覚 〜襧豆子の場合〜

窓際のベッドで兄は眠っていた。
赤茶色の髪。自分と似た広いおでこ。額の火傷の痕。竈門家で代々受け継がれてきた耳飾り。

鬼になった自分を見捨てず、ずっとそばにいて守ってくれた、たった一人の家族。私の偉大なお兄ちゃん。

規則正しく胸が上下しているのを確認して、ほっと安堵する。傷の痛みに苦しむことなく、きちんと眠れているようだ。

「…おやすみ。お兄ちゃん」
静かにつぶやいて、また音をたてないよう、そっと病室を出た。

このまま部屋に戻ろうかと思ったが、ふと兄の隣の病室を見つめる。

こっちの病室は…霞柱の時透無一郎くんの病室だ。

彼の体の損傷も凄まじいものだった。腕に足に腹…体の至るところにある切り傷は、見るに耐えかねない程で、生きていたのが本当に奇跡だった。

今はまだ昏睡状態になっている。最悪のことも覚悟しておかなくてはならないと、愈史郎さんが話しているのを聞いた。

そう思うと、いてもたってもいられなくなり、兄の病室へ入った時と同じように、隣の病室の扉をそっと開けた。
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