自覚

大広間からの音がだんだんと小さくなっていき、ほとんど聞こえなくなる頃には虫の鳴き声の方が大きくなっていた。縁側を通り中庭までくると、大きな満月と星空が顔をだしていて、僕たちを照らしてくれていた。

襧豆子の方を振り向くと、心なしか頬が赤い気がする。

疲れさせてしまったかと何気なく下を向くと、いまだに繋がれたままの手に気づく。

「…あ、ごめん…!つい…」

「あ…ううん」
名残惜しく手を離すと、二人で縁側に腰掛けた。やっと襧豆子と二人きりになれた。嬉しい気持ちが顔にでないよう、普段と同じような態度をとっているつもりだが、襧豆子にバレてやしないだろうか。

「ふろふき大根、襧豆子が作ってくれたんだってね。美味しかったよ」

「本当?よかったぁ。久しぶりに作ったから自信なかったの。無一郎くん、好きだって言ってたもんね」

「…うん。覚えててくれたんだね」

「もちろん。一緒に折り紙したことも覚えてるよ。紙ひこうき、飛ばしてみせてくれたでしょ?あんなに飛び続けてる紙ひこうき、初めて見たからびっくりして…教わって自分なりに折ってみたけど、全然飛ばなくてね。結局また無一郎くんに作ってもらったの。今の私なら、鬼の頃よりはうまくできるかなぁ」

「じゃあまた作ろう。また教えるから」

「うん!」
ころころと表情が変わって愛らしく、おしゃべりなところも兄にそっくりだと思った。口下手な僕の代わりに、襧豆子がたくさん喋ってくれてるように思う。

一緒にいることが嬉しい半面、自分と喋ってて楽しいのかと不安な気持ちになった。

…善逸なら、もっと襧豆子を楽しませてあげられるのかな。

せっかく二人になれたというのに、自ら惨めになるようなことを考えなくていいだろう。今日の僕は本当に変だ。

「そうだ、無一郎くん。ちょっと待っててね」
そう言って、おもむろに襧豆子が立ち上がった。廊下の奥へと消えて行くが、数分してすぐに戻ってくる。手にはお盆を持っていて、カステラが乗っている皿と、湯気をたてたお茶が二人分用意されていた。

「へへ。これ一緒に食べよう」

「どうしたの?これ」

「アオイちゃんに教えてもらって、みんなで作ったんだ。半分こしよう」

「ありがとう」
襧豆子が器用にフォークでカステラを切って、半分を僕に渡してくれた。半分こという言葉が懐かしく、なんだか食べてしまうのがもったいなく思ったが、襧豆子が食べだしたので僕も一口食べてみる。
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