自覚

口の中がふんわりと甘い香りに包まれた。
黄色の生地の部分は甘く、茶色の部分は少しだけほろ苦い。やわらかくて、優しい味がする。

「…おいしい」

「うん、うまくできた。アオイちゃんって本当に料理が上手なんだよ。私もいろいろ教えてもらってね………あ」

襧豆子が話を止めて、じっとこちらを見てきた。どうしたのかと聞く前に、ゆっくりと伸びてきた手。

僕の口元に襧豆子の指がふれる。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。

驚いて動けないでいると、親指と人差し指をくっつけて、にこりと笑う彼女。

「ついてたよ」
僕はなんて情けない顔をしてたんだろう。
頬に熱が帯びだしたのを感じ、伝染するように襧豆子の頬もみるみる赤くなってくる。

「ご、ごめんなさい!つい…弟たちにやってた癖で…!ごめんなさい!」

恥ずかしそうに手をばたばたと動かしている。
それがあまりにも可愛らしくて、襧豆子の白い手首をつかんだ。驚く襧豆子をよそに、そのまま引っ張って僕の頬に手を添えさせた。自身の手を重ねると、ぴくりと襧豆子の指が動く。

「む、無一郎くん…?あの…」
困惑した表情を浮かべ、桃色の瞳が徐々に潤みだしていく。


…たまらない。可愛い。

困ってはいるけど、嫌がってるようではない。
そう判断した僕は、重ねている手に少しだけ力を込めた。襧豆子のやわらかな手を堪能したくて、頬を擦り寄せてみる。なめらかな肌が頬を撫でて、心地よい。

「ひゃっ…!」
可愛い声が上がって、さらに力を強めた。

手だけじゃ足りない。襧豆子の全てにふれたくなる。
壊れそうなぐらいに抱きしめて、その愛らしい唇にかぶりつきたくなる。彼女の熱にふれて、やっと気づくことができた。


本当はずっと君に会いたかったんだ。
君のことを、ずっと知りたいと思ってた──。

この気持ちがなんて言うのか、もう知っている。


「襧豆子」

淡く揺れる桃色の瞳を捕らえる。


「僕は…弟じゃないよ」


───ねぇ。
どうしたら君は、僕を好きになってくれる?
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