自覚

「炭治郎!!!」

「えっ!?…は、はいっ!!!」
襧豆子の隣にいる炭治郎へ視線を移した。

「ごめん、少し襧豆子を…借りてもいいかな。話したいことがあって…」善逸ならまだしも、僕がこんなことを言いだすなんて、よほど意外だったのだろう。目を丸くした炭治郎が、口をぽかんと開けていた。

「もちろん、襧豆子が嫌じゃなければ…」

「襧豆子がいいなら、かまわないよ」
どうしたい?と問いかけるように、炭治郎が妹の顔を覗きこんだ。襧豆子の返事を聞くのが怖くて、断られる未来が一瞬脳裏をかすめた。けれど、すぐに明るい声が不安を取り払ってくれる。

「私も、無一郎くんと話したい!」
屈託のない笑顔で、そう言ってくれるから。

心臓の鼓動が早すぎて痛かった。
恥ずかしい。苦しい。嬉しい。可愛い。愛おしい。いろんな感情が渦巻いて、もうぐちゃぐちゃになってしまっているのに。

目の前のこの子だけは、あの日から変わらない。

「行こう」
これ以上この場所にいるのが恥ずかしくて、襧豆子の手を引き一緒に大広間を出る。


汚い高音を背中で聞きながら、少し早足で歩く。
襧豆子だけは転ばせないよう、注意しながら。
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