小さくため息をつく宇髄さんの方を、なんとなく見ることができなかった。ちらりと襧豆子がいる座卓へ目を向けると、楽しそうに仲間たちと談笑している。しばしの沈黙の後、宇髄さんが言った。

「時透、いいこと教えてやる」

「………なんですか？」

「雛鶴から聞いたんだけどよ。さっきおまえが食べてたふろふき大根。あれ襧豆子が作ったらしいぜ」

「…えっ」
どうせからかいの言葉だと思っていたら、本当に”いいこと”だった。

襧豆子の手料理だって知っていたら、もっとゆっくり味わって食べたのに。せめて最後の一口を食べきる前に教えてほしかったな。

宇髄さんは更に続けた。

「ふろふき大根はおまえの好物だからだって。それで自分が作りたいって申しでたらしい」

「………僕？」

「そっ！おまえの為だけに！襧豆子が作った」
ふろふき大根に襧豆子。この結びつきを探してすぐ、思い出したことがあった。

鬼殺隊が存在していたあの頃。蝶屋敷の縁側。
炭治郎は任務に出ていて、いつも襧豆子と遊んでる女の子たちは、仕事に追われていた。

定期診察の帰り、一人で庭に佇む襧豆子へ声をかけたんだ。

太陽を克服し、昼間でも外を出歩けるようになっていたが、一人で屋敷を出ることは許されていなかった。覚えたての自分の名を呼んで、嬉しそうに抱きついてきた彼女は、本当に幼子のようだった。