自覚

煮え切らない感情を飲みこむように、最後の一口であるふろふき大根を口へ放りこむ。ふと隣から大きな振動と気配を感じる。誰もいなかった隣の座布団に、宇髄さんが座ってきた。

「よぉ時透!食ってるか?」
話しかけてきた宇髄さんに返事をしようとしたら、それよりも馴染みのないお酒の匂いが鼻に刺さった。

「…クサイ」

「ははっ!わりーわりー。今日ぐれぇは我慢してくれや!おまえもどうだ?」

「いりません」
こんなふうに突き返しても、宇髄さんは嫌な顔ひとつしない。むしろ僕の様子を観察して、楽しんでるようにも見える。わざわざ席を移動してからかいにきたのかと思ったら、宇髄さんの表情が少しだけ引き締まった。

「…なぁ時透。よけいなお世話かもしれねぇが」

「じゃあ言わなくていいです」

「って聞けよ!一人でずーっと辛気くせぇ面しやがって。よけいな一言ぐらい言いたくなるっての!」

「…なんの話ですか?」
普段は祭りの神だの何だのと己を讃えているけれど、意外にもこの人は周りをよく見ている。宇髄さんが続けた。

「何をそんなにうじうじ悩んでるか知らねぇけど。そうやって悩んでるだけじゃあ、状況は何も変わんねぇぞ」

「…だから、一体なんの話…」

「襧豆子だろ?おまえのその面の原因」

「…!」
はっきりと口にだされると照れ臭さがあった。本当にそうだから、否定なんてできない。それほどまでに僕は彼女の方を見てしまっていたんだろうか。

「せっかくおまえも生きて帰ってきたんだ。襧豆子も無事に人間に戻れた。普通に話しかけりゃいいだけなのに、何をためらってんだよ」

「………だって、邪魔しちゃ悪いから」

「邪魔?」

「楽しそうに話してるの…邪魔しちゃ悪い」

「襧豆子がそんなふうに思う女だと思うか?」

思わない。
襧豆子がそんな子じゃないことくらい、僕にだってわかってる。

こんな気持ちは初めてだった。目覚めてからも、いくらだって話しかける機会はあった。けど、僕もまだ療養中だったし、襧豆子だって手伝いで忙しそうだったから。そんなふうに勇気のない自分を誤魔化し、言い訳ばかりを積み上げていった。

どんな鬼を前にしても立ち向かえたのに、人間の、それもたった一人の女の子を前に、どうしてこんなにも臆病になってしまうのだろう。
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