君と僕の花(完)

ぼんやりと空を眺めていると、頭の奥からゆっくりと光が差しこまれてゆく。朝日が昇っていくあの風景に似ていた。

点と点が結ばれ、ひとつの線になるように。

それは少しずつ繋がれていく。

時折訪れるこの感覚に、もうだいぶ慣れた。
目を閉じて神経を集中させる。

遠くから誰かの声が聞こえた。




「──………ぁ…おぎゃあ…おぎゃあ…!」

「!!!」
赤ん坊の泣き声が鼓膜を貫いた。

「産まれた!!!」
思わず立ち上がって声が出る。

姿は見えなくても、その泣き声から元気な赤ん坊だということが伝わってくる。小さな体で、必死で生きようとする姿が目に浮かび上がる。

新しい生命の誕生を感じ、胸が熱くなった。


「よかった…!よかった…!」
口元を抑えて感動に浸っていると、慌てふためく家族の姿も浮かび上がってきた。ほほえましい光景に思わず笑ってしまう。








誰が想像できただろう。

泣き虫でどんくさくて、米も一人で炊けなかったあいつが、父親だなんて。あいつに子育てなんてできるのだろうか。

…襧豆子さんがいれば大丈夫か。


墓参りに来てくれた弟夫婦の、幸せそうな笑顔を思い出した。大きく膨らんだお腹を愛おしそうに撫でる襧豆子さんと、支えるように妻に寄り添う無一郎。

”もうすぐ産まれるから見守っていてほしい”

そう告げていた。


次に墓参りに来たときには、赤ん坊を連れているだろう。男の子だろうか、女の子だろうか。

………俺も会いたかったな。


手のひらを見つめてみる。
霊体ではふれることは叶わない。

でも、俺には俺にしかできないことがまだある。
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