君と僕の花(完)

──…。
───……。
────………。

流れるように身を任せ、まるで水の中を優雅に流れていくような感覚だった。それは幼き頃の母の腕の中にも似ていた。ゆらゆらと揺れて、それでいて包まれるような安心感。

このまま目が覚めなくてもいい。

そう思えるほどの心地良さだが、だんだんと体の感覚が戻ってくる。

ゆっくりと目を開けていくと、やわらかい青空と霞雲が目に入った。風に頬を撫でられるうち、徐々に夢から覚めてくる。

…また眠っていたようだ。


ゆっくりと起き上がると、散り積もっていたであろうイチョウの葉がはらはらと落ちていく。

腕を上げて伸びをすると、背中がぽきっと音を立てた。

時間の感覚がないこの世界では、どれだけ寝ようが起きてようが関係ない。それでいてお腹もすかないし喉だって乾かない。もっといえば寝なくても平気で、食べなくたって困ることもない。


いつもこのイチョウの木の下で寝たり、ぼんやりと空を眺めたり、たまに川の近くまで歩いていったりしている程度。

ここに来てどれくらい経っただろうか。

何もしないで、本当にただ一人でぼんやり過ごしているだけ。それでも不思議なことに飽きはこないのだ。むしろ心地よくて、なぜだかとてもあたたかい気持ちになれる。


ここが天国なのかどうかはわからないが、まだここを離れるわけにはいかなかった。

いつか来るであろう人が現れるまでは。
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