君と僕の花(完)

私を見つめる彼の瞳に、だんだん熱情の色が混じりだしたのに気づく。瞳が鋭くなってきたのを感じ、思わずたじろぐと、後頭部に手を回される。

「!あっ…!」

離れる前に、唇を捕らわれる。頭を拘束されて、すかさず舌が侵入してきて口内を犯し始めた。ゆっくりと押し倒されながら、次第に意識が朦朧としだす。理性を保って静かに押し返すと、唇が解放された。

「…んっ…!ま、まって…」
「…ん…?」

「ここ…外!」
「…?外だね」

「外だね!?」
だからどうしたの?なんて顔で言うから、思わず叫んでしまった。私の夫はいつもこうだ。悠長というのか自然体というのか、いつも私は振り回されている。


「…襧豆子が嫌ならやめる」
そう言って顎に手をかけ、熱情と色欲でまみれた瞳に見つめられると、抵抗する気力が失われそうだった。受け入れてしまったら楽だけれど、そういうわけにはいかなかった。


「………無一郎くんは、ずるい…」
「無自覚な襧豆子のがずるいと思う」

「何が…?」
「煽ってくるんだもん」
「!?煽ってない!誰か来たらどうするのっ!」

「………人の気配はないよ。誰か来たらすぐに気づく」

「誰か来たらもう間に合わないでしょ!見られたらどうするの!か、体もそうだし………声だって…聞かれちゃったらどうするの!」

「それはだめ。襧豆子の体を見ていいのは俺だけ。声もだめ。他の奴になんて絶対聞かせない」

「!!!そ、そそ…それじゃあ我慢して。ね…?」


「………………うん」
長い間の末にようやく納得してくれた。体が離れ、はやく帰ろうと素早く支度を始めだした私の夫は、こんなとき本当に単純だと思う。

「もうお花見おわり?」
「花ならあるよ」

「え…どこに?」
無一郎くんが振り返ると、彼は何だかおかしそうに、いたずらっ子な笑みを浮かべていた。


「帰っていっぱい愛でる」

意味がわからなくてしばらく黙りこんだ後。

ゆっくりと頬に熱がこもりだす。

桜みたいだね。
なんて、また彼が無邪気に笑った。
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