君と僕の花(完)

*襧豆子side*

ゆっくりと唇が離れていく。まだふれていたくて、彼の頬にそっと口づけを落とした。

「…さっき、何かできることある?って聞いてたでしょ。もうひとつ言ってもいい?」

「…うん」

「…あのね。無一郎くんが先に…死ん、じゃったら…私がそっちにいくまで、待ってて…ほしいの…」

いやだ。そんな世界なんてきてほしくない。一生きてほしくない。何とか言葉を絞りだすように紡いでいると、自然と声が震えてくる。

「…私がそっちにいったら…二人で一緒に…生まれ変わって…!それで、また会いたい…っ…それなら、ッ───!」涙が落ちると同時に腕が伸びてきて、彼の胸の中に閉じこめられる。無一郎くんが紡いでくれた言葉に、また涙が溢れた。

「───それなら…さよならにならないね…!」

力強く応えてくれる彼の声に、胸が熱くなる。涙が花びらと一緒に、風に舞っていった気がした。

神様が本当にいるのだとしたら…。
お願いします。
どうか私の命を半分、彼にあげてください。

そうしたら、同じ時に私も一緒に逝ける。
離ればなれにならないですむ。

こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれない。でもね、無一郎くん。私だってあなたを一人にさせたくないよ。命の灯が消え失せても、離れたくないよ。

いつの間にか嗚咽が漏れ、涙が止まらなくなっていた。優しく頭を撫でてくれるこの手が、愛おしすぎておかしくなりそうになる。痣者の運命を疑いそうなほど、こんなにも近くにいるのに。

彼は、今生きているのに───!


「少しの間、離れるだけだよ」
「…うん…、うん…!」

「約束する。襧豆子がくるのちゃんと待ってるから」

”だからゆっくりくるんだよ”

静かに放たれたその言葉に驚く。自分の心を見透かされた気がした。いつだってそう。私の考えていることなど、彼にはきっとお見通しだから。

「…うん。待っててね。約束だからね」

この約束は、二人のお守り。
小指を立てると彼も小指を絡ませてくれた。指切りげんまんの指に、桜の花びらが舞い落ちてくる。

この世に生まれてきた意味があるとするなら。

その意味を表すものは、きっと───。

「大好きだよ」
翠色と桃色が交じり合い、どちらかともなく言葉がこぼれた。
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