君と僕の花(完)

*襧豆子side*

彼は気づいているだろうか。自分が泣きそうな顔になっていることに。揺れだした無一郎くんの瞳が、私の胸を苦しくさせた。

自身の死が近づいてくる恐怖なんて計り知れない。そばにいることしかできない。それだけでいいと、いつも彼は言ってくれる。たまらなく愛おしくて、もどかしい。重なり合う二人の手が、どことなく切なく震えている気がした。


「………無一郎くん、あのね…」
彼の心を軽くできるような言葉を探していると、頭の中の記憶の箱がゆっくりと開かれていく。それは幼少期の記憶だった。あの世とこの世の不思議な話。

お父さんが亡くなったとき、誰かから聞いた話だった。教えてくれたのは母だったろうか、それとも葬儀に来てくれた町人の誰かだったろうか。悲しみにくれる私たちの心に少しでも寄り添えるようにと、今あの話を思い出せたのはきっと意味がある。

「待ってて」
それを求めるため、おもむろに立ち上がった。
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