君と僕の花(完)

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前を歩く襧豆子に手を引かれながら山道を歩く。無事に炭治郎たちに渡す贈り物を買えた後、お花見をしようと襧豆子が突然に言いだした。以前不死川さんに教えてもらった甘味処で軽くつまめる菓子を買い、準備も整えてきた。

ご機嫌で歩く妻の後ろ姿は、まるでうさぎが跳ねてるようで、あるわけない長い耳まで見えてきそうだ。

「この先がそうなの?」

「うん。この間すみちゃんたちに教えてもらったの。穴場なんだって」

そう言われ歩き進めているうちに、だんだんと人の気配が遠ざかってくる。

木々がひしめき合い、地面に落ちる影の色を濃くしていく。お互い向かい合ってお辞儀をするかのように木々が僕たちを見下ろす。ぐるりと囲んでトンネルの形を作っていた。目印だという丸い大きな岩を通り過ぎると、すぐそこに目的の場所はあるという。

急に景色が開けて視界が明るくなると、大きな桜の木が目に飛び込んでくる。薄桃色の花びらがいくつも舞っていく中、中央にどっしりと佇んでいた。力強く地面にしがみついたような根と、まるで大蛇が天に昇るような太い幹。何者にも臆さない、生命の力強さを感じとる。

「…すごい」
「綺麗…」

桜を見上げて感嘆の声が漏れた。
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