君と僕の花(完)

春の訪れを知らせる大地の息吹。地面を歩いていると、呼吸をするように熱がせりあがってくる。やわらかい風が二人を包んで、二人の長い髪が仲良く舞っていった。

春は花がたくさん咲くから好きだと、道の端々に咲く花やつくしをを眺めながら襧豆子が言った。花の上を蝶々が踊るように飛んでいる。気づいた彼女がパッと閃いたような笑顔になった。

「無一郎くん!蝶々柄の帯なんてカナヲちゃんに似合いそうじゃない?」

「いいね。栗花落さんといえば蝶々だし」
僕の答えに満足そうに頷いた。

炭治郎と栗花落さん。二人の祝言の報せを受けたのは、つい先日のことだった。二人が家を訪ねてきたあの日。玄関先で二人を迎えた瞬間から、僕と襧豆子はひそかに目配せしあっていた。二人の関係を知っていた僕たちは、もしかしたらと期待に身構える。炭治郎と栗花落さんの報せは、まるで優しい春風を運んできたようだった。感極まった襧豆子が栗花落さんに抱きついて、姉妹一緒に喜びをわかち合う。

ほほえましくその姿を見つめるのは、僕と義兄である炭治郎。僕は炭治郎の心情へ自身の想いを重ねていた。彼の確固たる意志を秘めた赤い瞳は、すでに全てを背負いきる準備を終えていた。

「おめでとう。二人とも」
いつしかそうしてくれたように、心からの祝福を二人へ送った。


───婚姻に見合った贈り物を選びに、今日は襧豆子と町にやってきていた。町に着き小間物屋に入ると、その品数の多さに驚く。夫婦茶碗や湯のみ、夫婦箸なんてものも置いてあり、数が多すぎて頭を悩ませた。それ以外にも蝶々柄の帯や市松模様の袴、贈り物の候補が次々と増えてきて、襧豆子は特に頭を抱えていた。

「………いっそ全部贈る?」

「さ、さずがに全部は迷惑なんじゃあ…」
あれこれと一緒に悩んでいるうちに、時刻はとうに昼を過ぎていた。
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