繋いでいく奇跡

結婚の報告をするために、私は今日初めて無一郎くんの故郷に訪れた。杣人をしていたという彼の家は、私が住んでいた山よりも奥深い場所にあった。自分の家族の話を、彼はよく私に聞かせてくれた。

病により帰らぬ人となったお母さんと、不慮の事故で命を落としたお父さん。そして、鬼に殺された双子のお兄さん。耳を塞ぎたくなるその内容に、彼の背負う傷の根元を見た気がした。

「無一郎くんのご家族に、私も会ってみたかったな」

「そうだね。みんな襧豆子のこと、絶対気に入ってたと思うよ」

「…そうかな…そうだと嬉しいな…」
用意しておいた椿の花と折り鶴を、順番にお供えしていく。

彼のご両親とお兄さんの姿を自分なりに思い描いてみるも、不透明なものにしかならない。どんな人たちだったんだろう。絶対に素敵な人たちに違いないはずだけど、やはり話をしたかった。声を聞いてみたかった。

「…双子のお兄さんって、無一郎くんに性格も似てたの?」

「全然。僕と違ってしっかりして…優しかったけど、ちょっと口調はきついかも。よく怒られてた」

「あははっ、じゃあ私も怒られてたかもね」

「さすがに襧豆子には………あ」
何かを思い出したかのように、急に無一郎くんが会話を止める。

「どうしたの?」

「今思ったんだけど、もしかしたら兄さんも襧豆子のこと好きになっていたかなぁと思って」

「ええっ!?それはないと思うよ…」

「でも双子だから、好きな子も同じなんじゃないかな…兄さんが恋敵か…」

顎に手を当て、無一郎くんが真剣な表情に切り替わる。自分にそっくりな双子のお兄さんを思い出しながら、ぶつぶつと推測を始めてしまった。好きな子や恋敵だなんて言葉、聞いているこっちが恥ずかしくなってくる…!

照れているのがバレぬ前に、早々にお墓参りの続きを促した。
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