繋いでいく奇跡

*襧豆子side*

今日は久しぶりの晴天だった。それでも空気は冷たくて、積もった雪はそう簡単に溶けてくれそうにない。陽の光が反射して、白い雪道の上にうっすらと黄色い膜が張ってるようだった。

ざくざくと雪道を踏みしめる音を聞きながら、目的地までの道のりを歩く。繋がれた手のおかげで、寒くは感じなかった。何度も指の皮が剥がれ、常に刀を握ってきた彼の手は、堅くて厚みがある。初めて手を繋ぐわけじゃないのに、いまだに気恥ずかしさが抜けない。

「襧豆子。歩くの早くない?」

「うん、大丈夫」
歩幅を合わせてくれる彼の横顔を、こっそりと盗み見た。想いが通じ合えた日。兄に挨拶に行った日。この短期間で、無一郎くんが一気に大人びたように見えてしまう。風になびいて揺れる黒髪が、妙に色気を醸しだしていて、心臓が小さく波打っていた。

無一郎くんに手を引かれて山道を進んでいく。小さな川を渡って、ゆるい上り坂を上がっていくと、彼の足が止まった。

「着いた。ここだよ」
人の歩ける道から、少しはずれた場所。草木に囲まれるように”時透”と名が刻まれた墓石が佇むように建てられてあった。

「ここに、無一郎くんのお兄さんが…」

「うん。父さんと母さんは、もう少し奥に」
脇道を指差しながら無一郎くんが言った。彼のお兄さんのお墓は、当時御館様がご好意で建ててくださったと聞く。ご両親のお墓と離れている理由は、聞かずともわかってしまった。
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