繋いでいく奇跡

どれくらい睨みあっていたかわからない。
まるで高みの見物とばかりに、のんびりと宙を舞う雪粒。うっすらと雪化粧ができ始めた地面の上に、自分たちの足跡が型どられていた。

ふと力が抜けていくように、つり上がっていた善逸の眉毛がゆっくりと下へ下がっていった。真一文字に結んでいた口元がほどけ、なめらかな弧を描いていく。

「…うん。わかった」
先ほどの勢いがなくなり、優しい声音で善逸が言った。張りつめていた空気が、やわらかいものに変化していくのを感じる。

「おまえがあっさり、ハイわかりましたとか言ってたらさ、殴ろうと思ってた。でもその感じなら…大丈夫だろうな」

善逸が頭をかくと、頭に積もっていた雪がさらさらと落ちていく。たんぽぽのような人だと、以前に彼女が語っていた彼は、本当に冬に咲くたんぽぽのようだ。少しだけ寂しそうな顔になった後、善逸はまた顔を引きしめた。

「試すようなこと言って悪かった…襧豆子ちゃん、絶対幸せにしろよ」

「…はい!」
逆の立場だったなら、僕は恋敵の男にこんな台詞を言えたのだろうか。素直に、真摯にその言葉を受けとることができた。今日わざわざここまで来たのは、自分なりのけじめをつけにきたのかもしれないと、彼の帰り際にやっと悟った。

「帰るわ」
毒を抜かれたようにつぶやき、門へと歩きだす善逸を追う。かける言葉を探してみても、自分が善逸に言えることはもう何もなかった。

「おまえさ、二十五までとか言わずに…」
扉から外へ出る直前、善逸が振り向く。

「…?はい…」
「生きろよな。絶対」

ぱたんと門の扉が閉まり、雪道を踏みしめる足音はあっという間に遠ざかっていく。

その言葉はとてつもなく重く。強く。
燃えあがる炎のように、胸に熱く響いた。

「………ありがとう」
静かに降り続ける雪の中、僕の足はしばらく動けなかった。落ちてくる雪を、広げた手のひらの上へ乗せる。何もせずとも、雪粒は自然現象として、熱で溶けて水に変わっていく。

───抗えるのだろうか。

今すぐ彼女の熱にふれたくなって、胸に拳を押し当てた。
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