伝えたい言葉

*襧豆子side*

時がとまったような感覚に陥った。無一郎くんの言葉が胸に落ちて、ゆっくりと体中に染み込んでいくようだった。彼の背中に手を回して、力の限り抱きしめるも、それ以上の力で強く抱きしめられる。

「襧豆子。聞いて」

「…うん」
「…僕は、鬼との闘いで痣を出現させてる。その…痣っていうのが…」

「命の前借り。二十五歳を待たずに、寿命が尽きるっていうものでしょ…?」

「…!知ってたの…?」
うなずいて答えると、無一郎くんの愕然とした様子が伝わってきた。動揺する彼の体が微かに震えた気がして、少しでも安心させたくて彼にしがみつく。

「身勝手な話だけど…本当にこれは僕のわがままなんだけど…」私を捕らえる無一郎くんの瞳が、すぐ目の前にあった。頬を包んでくれる手が切ないほどに優しくて、まだ最後まで話を聞いていないのに涙が溢れだす。

彼の言葉に、仕草に、私はいつも一喜一憂して、振り回されていた気がする。その言葉を聞きたくて、ずっとずっと待っていた。

ずっと、彼に恋焦がれていた───。


「それでも、襧豆子が好き。ずっと一緒にいたい。ずっと僕のそばにいてほしい。友達としてじゃなくて………夫婦として」

無一郎くんの手にそっと自分の手を重ねる。

「…痣の寿命のことは、私にもわからない。この先のことを考えると、不安がないっていうのは嘘になる。けどね…無一郎くんの余生に、私が一番近くにいられるのなら、これ以上嬉しいことはないよ」

彼の翠色の瞳が大きく見開かれると、みるみるうちに涙が溢れ、一雫、また一雫とこぼれていく。それはとてもきれいな涙で、少しでも彼の心を救いたくて。引き寄せられるように、私から彼の唇を求めていた。

「短命だって何だっていいの。そばにいたい。あなたと生きたい…無一郎くんが好き」

私の名をささやく彼の声を聞きながら、その言葉の重みを噛みしめる。

「僕と、結婚してくれますか。竈門襧豆子さん」
たとえ不確かな未来でも、すぐに別れが訪れることになってもかまわない。彼との未来を、自分だってほしかったのだから。

これは、私のわがまま。


「───はい」
互いの想いを確認し合うように、また唇が重なる。悲しみ以外にも人は涙を流すのだと、無一郎くんが教えてくれた───。
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