伝えたい言葉

焦れったいだの早くやれだのと、散々わめき散らしたあと銀子は帰っていった。夜が深まり、隣でうつらうつらしだした彼女とは、すっかりそんな雰囲気じゃなくなっていた。

銀子が一体いつからあそこにいたのか、僕たちの会話をどこまで聞いていたのか、それは怖くて聞けなかった。銀子いわく見守ってくれていたらしいが、勘弁してほしい。気配に全く気づけなかったのは、剣士をやめて感覚が鈍ったのか、風邪のせいか、きっとどちらでもないだろう。ただ目の前の襧豆子しか見ていなかったからだ。

銀子が炭治郎から預かってきた伝言は『帰る日取りが決まったら迎えに行くから、また連絡しておいで』ということだった。

それを聞いた襧豆子の心底嬉しそうな笑顔が、また僕の心を甘く掻き乱す。可愛らしい寝息をたてて、当の本人はすでに夢の中だった。
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