伝えたい言葉

「…無一郎くん、あの…私ね…」
愛らしい唇に人差し指を押し当てた。遮られて抗議する代わりに、上目遣いで自身を見つめてくる。

「…待って。僕から言わせて」
暗闇の中に、ほんのりと浮かびあがる桃色を捕らえた。吸い込まれるように、彼女へ向かって手を伸ばしていた。応えるように襧豆子からも手が伸びてきて、その小さくてやわらかい熱にふれる。

「…無一郎くん、熱は?」

「もう下がってる」
彼女のもう片方の手が僕のおでこへと伸びてきた。そんな仕草にも心臓が大きく反応して、たまらなくその手を引き寄せる。

自身の頬と手の間で彼女の熱を包み込むと、桃色の瞳が水面のように揺れだした。

「………っ!」
「襧豆子」

僕の昔の浴衣を着ている姿が、また色気を引き立てていた。愛らしい唇から漏れる吐息の音まで聞こえてきそうで、言葉で言い表せない感情に呑まれてしまいそうだった。

「僕、ずっと………」

絡み合うふたりの視線が、僕の言葉を待つ彼女の視線が、ふいに外れる。自分ではなく、自分の背後へ視線を向けた襧豆子に気づいたとき、僕もすぐに気配を察知して振り返った。襧豆子を懐に閉じこめて、その場から距離をとる。

四角い窓の右隅に、うごめく小さな塊。夜の暗闇を映す窓の中で、一際に黒い影を作っていた。

「…驚かさないでよ」
襧豆子も気づいたんだろう、苦笑いでこちらを見上げている。ゆっくりと近づいて、窓ぶちへ手をかけた。


「何してるの、銀子」

「キャアアアア!!!」

「銀子ちゃん、しーっ」

銀子の甲高い悲鳴と羽をばたつかせる音が、静かな夜の中に反響していく。それは炭治郎たちのいる山まで聞こえそうなほどだった。
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