伝えたい言葉

「…あと、さ…」

「え、まだ何かある?」

「いきなり、ごめん…その、口づけして…」

「!!!」
襧豆子が息を呑む音が聞こえた。また熱が上がってきたのは、風邪だからじゃない。

「だ、大丈夫…気にしてない、よ…」
ぽつりとつぶやかれた声は、すぐに夜の闇に消えた。拒絶されなかったとはいえ、決していい行いではなかった。けど襧豆子が抱きしめ返してくれたとき、襧豆子も僕と同じ気持ちなのかもしれないと、淡い期待を抱いていた。長い沈黙がふたりの間に流れ、衝動的に体が動く。


「「………あのっ」」

体を起こして声を発すると、まるで鏡のように襧豆子も同じ動作をした。長い髪がさらりと揺れて、瞳が交わる。自然とふたりの距離が近くなって、彼女の赤く染まる頬にやっと気づいた。

「………あ」
「えっと………先に言っていい?」

「…うん」

「誤解されたくないから言うけど、誰にでもああいうことするわけじゃないから」

───襧豆子だから。

「…私も…誰とでもああいうことするわけじゃないよ」

───無一郎くんだから。

君にしかできない。
──あなたにしか許さない。

掛け布団から身を抜け出すと、彼女もまた鏡のように同じ動作をした。
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