伝えたい言葉

「今日、来てくれてありがとう」

「ううん、銀子ちゃんが教えにきてくれたから。びっくりしたよ。最初なにかと思って空をよぉく見てたらね、銀子ちゃんがすごい勢いで飛んできてて…ふふっ」

そのときの情景を思い出したのか、襧豆子がやわらかく笑った。

「銀子が帰ってきたら、よくお礼を言っとくよ」これから先、銀子に偉そうなことは何ひとつ言える気がしない。宇髄さん家や蝶屋敷の方が家からは近いというのに、気を利かせて一番会いたい人を連れてきてくれた。

「………それと、ごめんね」

「…?なにが?」

「ずっと手紙の返事をだしてなくて…」

「…ううん。元気にしてるか心配だったけど、今こうして会えてるし、安心した。あ、お兄ちゃんも心配してたんだよ」

「炭治郎にも謝らないとな。炭治郎やみんなは元気にしてる?」

「うん。すっごく元気」
襧豆子とこうして以前のように話せている。それが本当に嬉しくて、自分はやはり夢を見ているんじゃないだろうか。

けれど一番知りたいことは、まだ聞き出せていない。自分の秘めた想いを打ち明ける前に、どうしても確かめておかないといけなかった。想い人を前にすると、再び自分の中の欲望が形作られていく。

「………あのさ、襧豆子」

「なぁに?」

「…善逸と結婚するの?」

「!な、なにそれ…なんで」

「求婚されたって聞いたから」
暗くて顔はよく見えなくても、襧豆子がひどく戸惑っている様子が空気から伝わってきた。平静を装って聞いたはずだったが、おそらく自分の声は震えていたと思う。

「…お断りしたの。申し込みを受けていたら、そもそもここには来てないでしょ」

「…あ、たしかに。そうだね」
ほっと胸をなでおろし、長く息を吐き出した。
言われてみれば、よその男の一人暮らしの家に、婚約者がいる身で上がることは考えにくい。

もしも逆の言葉を聞いていたら、このまま襧豆子に何もしない自信はなかった。自分の中の獣の部分が顔をだし、無理やりにでも自分のものにしていたかもしれない。本人の口からきちんと聞けたことで、ようやく心から安堵できた。
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