伝えたい言葉

*無一郎side*

少しの気だるさは残るものの、薬が効いてきたのか、熱の方は微熱程度までに下がった気がする。

暗い室内にだんだん目が慣れてきて、周りの景色がぼんやりと見えるようになった。眠気がこないまま時間だけが流れていく。しばらく天井を眺めた後、ふと隣の布団で眠る襧豆子へ視線を移した。結局同じ布団で眠ることは叶わなかったけど、それでも彼女との距離は近い。彼女はこちらに背を向けており、長い黒髪が線を描いたように、布団の上で広がっている。

…本当にここに襧豆子がいる。
夜が更け、静寂に包まれたこの空間で、改めて彼女の存在に感動していた。そうすると脳が勝手に襧豆子と交わした口づけを思い起こさせていた。

ふっくらとした唇は想像以上にやわらかくて、求めるたびに甘い吐息が漏れていた。走ってきてくれたのだろう、崩れた着物の合間からは白い柔肌が見えて、その中に手を忍ばせたくなるのを何度堪えたか。

…あまり思い出すのはまずい。
襧豆子から視線をはずし、背中を向けるように寝返りをうった。今夜は眠れないかもな…。ぼんやり考えていると、後ろから布団の擦れる音が聞こえた。

「………無一郎くん?」
振り返ると、眠っていたと思っていた襧豆子が、体をこちらに向けて自分を見ていた。

「襧豆子、起きてたの?」

「うん。なんだか目が冴えちゃって。無一郎くんも起きてたんだね。熱しんどい?」

「ううん、平気。僕もなんか眠れなくて」
ふたりで向かい合う姿勢になると、無防備に横になってる彼女へ手を伸ばしたくなる。その反面、安心感もあった。このまま朝まで彼女と話をしていたいと、朝なんかこなくていいと思ってしまう。
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