伝えたい言葉

───無一郎くんの家の厨には、お米に食塩、味噌、少しばかりの野菜類が常備されてあった。勝手に家に入ったあげく厨まで無断に使うのは、さすがに礼儀としてはばかられた。銀子ちゃんに頼まれたからと無理やり納得させ、胃に優しいお粥を用意する。

お粥を全部食べてくれた後は、処方された薬も大人しく飲んでくれた。

熱があってはお風呂に入るのもつらいかもしれない。お湯を張った桶とタオルの準備を終え、部屋を出ていこうとする私に彼が言った。

「手伝ってくれないの?」

「…それぐらい自分でしてください」
冗談げな口ぶりが、いつもの無一郎くんだった。彼の笑顔を久しぶりに見れた気がする。あんなことをした後なのに、また普通に話せていることにもホッとしていた。

別室で自分の体も拭き終えると、着替えに無一郎くんの浴衣を借りた。今無一郎くんが着ているサイズだと少々大きいが、昔のだとなんとか着れそうだった。少しだけ手足が見えているが、この程度だと問題ないと、鏡の前で両手を広げてみる。

好きな人が着ていたものを自分が着るのは、なんだかこそばゆい。

「………それ、まずいね」
部屋に戻った私に、無一郎くんが言った。

「えっ!へ、変かな!?」
灰色一色のいたって簡易的なデザインの浴衣。おかしなところを見落としていたのか、もう一度全身をくまなく見てもわからなかった。

「変じゃない、全然」

それ以上は何も言わず、手で顔を隠してる無一郎くんは耳まで真っ赤になっていた。

なぜか途端に口づけがよぎって、振り払うように再び部屋を出る。冷え冷えとした廊下を歩きながら、先ほどの約束…もとい交換条件を思い出していた。

………どうしよう。本当に一緒に寝るのかな。
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