伝えたい言葉
『会いたかった』
彼もまた同じ想いを抱えていたことに、 胸がいっぱいになっていた。痛いほどに抱きしめられる腕。噛みつくような口づけ。それでもふれられる手は切ないほどに優しくて、私を絶対傷つけはしない意志が見え隠れする。
彼の仕草のひとつひとつが、嘘偽りない言葉だと伝えてくれる。それがたまらなく嬉しくて愛おしい。このまま無一郎くんに、すべてを委ねたくなってしまう。
「んッ…ふ、っ…ン!」
角度を変えられ、奪われる唇。頭が朦朧としだして、初めて彼の熱を一番近くに感じていた。それでも自分の理性を奮い立たせて、もう何度目かわからない口づけが離れたとき、厚い胸板をそっと押し返した。
「んッ…まって…!」
「…?どうしたの?」
「…そろそろ、あの…休まなきゃ。熱も上がってきてるし…薬、ある?」
「うん。蝶屋敷でもらってきた」
無一郎くんの目線の先をたどる。紙袋に入った薬が、机の上に置かれてあった。
「じゃあ薬飲んでもう寝なきゃ…わっ」
離れがたい気持ちを隠して身を離そうとすると、再び腕の中に閉じこめられる。
「………薬は嫌」
「え?なんで………んっ」
問いただそうとして顔を上げると、無一郎くんの長い髪が、さらりと頬にかかった。不意に頬を擦り寄せられて、また彼の熱を感じる。熱い吐息が耳にかかって、ぴくりと肩が跳ねてしまうのを止められなかった。
療養中、彼はきちんと薬を飲んでいたはずだ。不思議に思っている私に、切ない声が耳元でささやく。
「熱が下がったら…襧豆子は帰っちゃうでしょ」
「………え?」
「だったら飲まない。襧豆子がここにいてくれるなら、熱なんて下がらなくていい」
そう言って顔を隠すように、私の肩へ顔を埋めた。幼い子どものような姿と言葉は、彼の寂しさを物語っていて、胸が痛かった。病気で寝込んでいるときに家にたったひとりというのは、心細いし寂しいに決まってる。自然と気持ちも脆くなってくるはずだ。
「…熱が下がるまでそばにいるし、もちろん元気になってもまた遊びにくるよ。まずはちゃんと薬飲んで、風邪治そう?」
そっと頭を撫でて促すと、撫でていた手がふいに掴まれる。顔を上げた無一郎くんと視線が重なると、納得してくれたと思いきや、予想外な交換条件を突きつけてきた。
「襧豆子が一緒に寝てくれるなら薬飲む」
そう言う彼の表情は、決して幼い子どものようではない。同い年の男の子そのものだった。おさまっていた体温が、一気に上昇しだす。
「一緒にって…!」
「じゃないと飲まないよ」
「…っ、なんで条件付きなの。薬飲まなきゃ治らないでしょ」
「僕は治らなくてもいい」
「…だめ、そんなの」
「じゃあ一緒に寝よう?そしたら飲むから」
「………恥ずかしいからちょっと…」
こんなに近くにいて、口づけまでしといて…今さらなんだと自分で思う。それは無一郎くんも同じだったようだ。
「…今さらじゃない?」
「………今さらだね」
押し問答になってもキリがなく、結局私が折れることになってしまった。目に見えてご機嫌になった無一郎くんを見ると、恥ずかしいけど嬉しい気持ちの方がやはり強かった。
彼もまた同じ想いを抱えていたことに、 胸がいっぱいになっていた。痛いほどに抱きしめられる腕。噛みつくような口づけ。それでもふれられる手は切ないほどに優しくて、私を絶対傷つけはしない意志が見え隠れする。
彼の仕草のひとつひとつが、嘘偽りない言葉だと伝えてくれる。それがたまらなく嬉しくて愛おしい。このまま無一郎くんに、すべてを委ねたくなってしまう。
「んッ…ふ、っ…ン!」
角度を変えられ、奪われる唇。頭が朦朧としだして、初めて彼の熱を一番近くに感じていた。それでも自分の理性を奮い立たせて、もう何度目かわからない口づけが離れたとき、厚い胸板をそっと押し返した。
「んッ…まって…!」
「…?どうしたの?」
「…そろそろ、あの…休まなきゃ。熱も上がってきてるし…薬、ある?」
「うん。蝶屋敷でもらってきた」
無一郎くんの目線の先をたどる。紙袋に入った薬が、机の上に置かれてあった。
「じゃあ薬飲んでもう寝なきゃ…わっ」
離れがたい気持ちを隠して身を離そうとすると、再び腕の中に閉じこめられる。
「………薬は嫌」
「え?なんで………んっ」
問いただそうとして顔を上げると、無一郎くんの長い髪が、さらりと頬にかかった。不意に頬を擦り寄せられて、また彼の熱を感じる。熱い吐息が耳にかかって、ぴくりと肩が跳ねてしまうのを止められなかった。
療養中、彼はきちんと薬を飲んでいたはずだ。不思議に思っている私に、切ない声が耳元でささやく。
「熱が下がったら…襧豆子は帰っちゃうでしょ」
「………え?」
「だったら飲まない。襧豆子がここにいてくれるなら、熱なんて下がらなくていい」
そう言って顔を隠すように、私の肩へ顔を埋めた。幼い子どものような姿と言葉は、彼の寂しさを物語っていて、胸が痛かった。病気で寝込んでいるときに家にたったひとりというのは、心細いし寂しいに決まってる。自然と気持ちも脆くなってくるはずだ。
「…熱が下がるまでそばにいるし、もちろん元気になってもまた遊びにくるよ。まずはちゃんと薬飲んで、風邪治そう?」
そっと頭を撫でて促すと、撫でていた手がふいに掴まれる。顔を上げた無一郎くんと視線が重なると、納得してくれたと思いきや、予想外な交換条件を突きつけてきた。
「襧豆子が一緒に寝てくれるなら薬飲む」
そう言う彼の表情は、決して幼い子どものようではない。同い年の男の子そのものだった。おさまっていた体温が、一気に上昇しだす。
「一緒にって…!」
「じゃないと飲まないよ」
「…っ、なんで条件付きなの。薬飲まなきゃ治らないでしょ」
「僕は治らなくてもいい」
「…だめ、そんなの」
「じゃあ一緒に寝よう?そしたら飲むから」
「………恥ずかしいからちょっと…」
こんなに近くにいて、口づけまでしといて…今さらなんだと自分で思う。それは無一郎くんも同じだったようだ。
「…今さらじゃない?」
「………今さらだね」
押し問答になってもキリがなく、結局私が折れることになってしまった。目に見えてご機嫌になった無一郎くんを見ると、恥ずかしいけど嬉しい気持ちの方がやはり強かった。
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