溢れる想いの先に

*襧豆子side*

枝を踏む音と枯葉を踏む音が響く。
こっちが近道だと、前を飛ぶ銀子ちゃんに誘導されながら、山道を走り抜けていた。なんとか暗くなる前には、無一郎くんの家に着きたい。

お兄ちゃんたちが帰ってくるまで待つことはできず、家には置き手紙を置いてきた。

『銀子ちゃんと一緒に無一郎くんのところへ行くから、心配しないで』と。加えて銀子ちゃんが自身の羽を一枚添えてくれたから、それが嘘ではないという証拠になるだろう。

走りながら大まかな状況を聞いていると、無一郎くんが病気で動けないでいるとわかった。病気と聞くだけで、嫌な予感がとまらない。昏睡状態のときの様子を思い出して、胸がざわついて落ちつかない。

はやく、無一郎くんのところに───。

もはや限界の近づく足は、走る速度は落ちても止まることは決してなかった。

無一郎くんの家に着く頃、辺りは夜の闇に染まっていた。銀子ちゃんの誘導がなければ、山の中で迷子になっていたかもしれない。荒い息を整えながら、ゆっくりと家の門前に近づく。

「襧豆子!アタシはアンタノ家二モウ一度行ッテクルワ!兄貴二会ッテ、チャント安心サセテオクカラ!」

「銀子ちゃん、ありがとう!」

「アノ子ヲヨロシクネ!」
銀子ちゃんはそう言って踵を返し、また夜空の向こうへ颯爽と飛び去っていった。
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