溢れる想いの先に

「ガンバッテ!ガンバッテ!」
夕闇の景色の中を黒い影が舞って、初めて任務を請け負ったときの情景に似ていた。深い闇に包まれる前にカタをつけようと、刃を振るう自分の上で、銀子はただ心配そうに見守っていた。

ふっと唇から声が漏れて、口許が緩む。

「銀子。もうひとつお願い!」
空に舞う相棒へ声をかける。

「ナァニ?」
「明日、遣いに出てもらえるかな。手紙を届けてほしいんだ…襧豆子に」

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、銀子のまつ毛がやわらかく垂れる。風の抵抗を受け、ひゅっと空をきりながら目の前に降りたってきた。銀子の起こした風でなびく髪を押さえていると、自信満々に答えてくれた。

「モチロン!オ安イ御用ヨ!」

───誰かに甘えるのは、背中を押してもらうのは、これで最後にするから。

「ありがとう」
銀子に、仲間たちに、心からの感謝を述べた。

懐にしまいこんだ指輪を、服の上からそっとふれる。こんな身勝手な自分は受け入れてもらえないかもしれない。もしかしたら、ふたりはすでに恋仲になっているかもしれない。この指輪おもいは無駄になるかもしれない。

それでも………───。
真っ白な紙面に筆を走らせる。
君への想いは、紙切れ一枚なんかで綴るに足りないけど。
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